「ランボ、リボーン戻ってきたよ!」

入ってきた俺に気付いてツナさんが声をかけた。
俺は飛び上がりたくなる衝動を抑えたが、
何故か涙まででてきそうになって慌てて下を向く。

「へ、へぇ、そうなんだ」

「会わないの?」

「・・・・・・・・」

会わないの?と言われても、
会いたい会いたいと走り出すわけにはいかないし。
あ、いや、会いたいわけじゃない、けど。
どうせ居ないだろうと思ってたし、
がっかりして帰る予定だったから
帰ってきていた時のことを想定していなかった。

「あ、の、今日は出直しま・・・」

「殺しに来たんでしょ?相当疲れてるみたいだから寝てると思うし、チャンスだよ」

山本といいツナさんといい、ボンゴレファミリーは俺の心を読むのが上手い。
俺は「じゃあお言葉に甘えて・・・」と一礼し、リボーンの部屋へと向かった。
本来、マフィアといってもここまで共同生活のような形をとっているところは少ない。
詳しく聞いたところ各自自宅を持っているのだが
そこへは時々しか帰らないようで、ほぼアジトで過ごしているそうだ。
何かあったときアジトに居た方がラクなんだ、とも言っていたが
それよりもこのアットホームな空気がそうさせている気がした。
他のファミリーのやつが言うのもなんだが、居心地が良い。
まるでみんな本当の家族のようで。

そんなことを考えてる内にリボーンの部屋の前に辿り着き、
ドアノブを見据えた。

帰って、きてるんだよ、な・・・。

疲れて寝ているという言葉を思い出し、
俺はそっとドアノブを回した。
ゆっくりとドアを開けると中は真っ暗で
この15日間の不安がよみがえる。
ゴクリと唾を飲み、部屋の中へ足を踏み入れる。
後ろ手でドアを閉めると、光が完全に遮断され何も見えなくなった。

ほんとに居るのか・・・?

徐々に目が闇になれて、
部屋が輪郭を露わにする。
そして、微かに聞こえてきたのは深い寝息だった。
はやる気持ちを抑えながら音の方向に導かれ
辿り着いた先のベッドの上には
15日間姿を消していた男が布団もかぶらずに眠っていた。
よほど疲れていたのだろう。
倒れ込むようにうつぶせでベッドの上に肢体を投げ出し
顔だけを横に向け、口を半分開けて深く呼吸を繰り返していた。

リボーンだ・・・。

ベッドの脇に座り込んで、俺はただその寝顔を見つめた。
たった15日見ていなかっただけなのに、
リボーンってこんな顔してたっけ、という懐かしい想いが込み上げて
胸がいっぱいになった。
憎らしいはずなのに、こんなにも愛しい。
しっかりとその存在を確かめたくて頬に手を伸ばすと
指先に温もりがあった。
いつもならすぐ起きるのに、リボーンは身じろぎ一つしない。
よく見ると少しやつれてる。
こんなリボーン見たことない。

「・・・・・」

起きて俺に気付いて構って欲しいという欲求は捨てるべきなのに、
俺の理性ってやつはいつまで経ってもガキみたいで
そっと顔を近づけその唇に自分のそれを重ねた。
呼吸の邪魔はしたくなかったから、
薄い上唇をかすめる程度のキス。

・・・起きない。

起きたら困るんだけど、起きてほしい。
起きてほしいけど、起きたらどうすればいいのかわからない。
だけど、起きてほしい。

・・・もう一回だけ。

身を乗り出し、先程のよりも強く唇を押し付け、
下唇を軽くついばむ。

夜這いって、こんな気分なんだろうな・・・。

悪戯をしている時のような興奮、
起きたら困るけど少しでも反応が欲しくて止められない。
そんなむず痒い衝動に駆られて
リボーンの半分開かれた口にそろりと舌を忍び込ませた。
乾いた舌を捕らえ、自分の唾液を送り込む。

「う・・・」

ついキスに夢中になってしまったらしく、
息苦しくなったのかリボーンののどの奥から声が漏れた。
その声を飲み込んでさらに深く口づけると、
肩を掴まれた。

「・・・牛・・・殺すぞ・・・」

久しぶりに聞いたリボーンの声は怒気を含んではいるものの、弱々しい。
ぞくりとして、構わずもう一度口づけた。

「ん・・・」

漏らす吐息に興奮し、体を仰向けにさせた。
リボーンはよほど眠いのか、たいして抵抗もせずだるそうに従った。
唇を離さないようにしながらベッドに乗りその疲れきった体にまたがると
せわしなくシャツのボタンを解いた。
他人のボタンを外すことに慣れなくて3つ目のボタンをなかなか外せずにいると
体の下のリボーンが鼻で笑った。

「やるなら1人で勝手にやってろ、俺は寝る・・・」

それだけ言うと大きく息を吐き、再び寝息を立て始めた。

「え、・・・リボーン、」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・ホントに寝ちゃうの?」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

「ねぇ、って」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

返事の代わりに寝息が深くなる。
悔しくなって、俺は再びリボーンのシャツのボタンに手を掛けた。

こうなったら意地でも起こしてやるからな・・・!
この15日間の恨みを思い知れ!

体の下ではリボーンがさらに寝息を深め、
我関せずと言わんばかりの穏やかな寝顔を見せていた。
俺の15日間の葛藤なんか知らない、知るはずもないリボーン。
それが悔しくて、無性に腹が立ったが、
不器用な指はうまくボタンを外すことができない。

くそっ、なんで・・・っ!

焦っているのか、指先がもつれる。
いや違う。
いくら不器用でも、焦っていても、他人のボタンくらい外せる。
―――――ただ、指が震えてさえいなければ。

「っ・・・・」

なんで震えてるんだよ。
ていうか、なんで俺、涙出てきてる?
何1人で感極まっちゃってるんだよ。

「ムカつく・・・っ」

アンタは俺に会わなくても、たった15日間会わなくても、痛くもかゆくもないんだな。
じゃあいっそのこと帰ってこなければよかったんだ。
どっかのマフィアに殺されて、のたれ死んでしまえばよかったんだ。

「起きろよ・・・・!」

ちぎれそうなくらいにシャツを握りしめ、
このまま首を絞めて、その深い呼吸を止めてやろうと思った。
その安らかな寝顔を苦痛に歪めてやろうと思った。

だが、俺の指はまたしても力が入っていなかった。
ただシャツを掴むことしかできなくて、唇を噛みしめた。

その時、

「リボ・・・・・・、?」

ふいに背中を叩かれた。
子供をあやすように、ポンポン、と。
そして俺の頬に手を伸ばし、涙の跡を手の甲でそっとなぞると

「相変わらず泣き虫は治ってないのか・・・」

と、まだ重たそうな瞼を薄く開いて、皮肉っぽく微笑んだ。
その言葉だけで俺ときたら涙腺が壊れてしまったようで、
ボロボロと溢れる涙が、リボーンのシャツに染みを作っていった。

「冷てぇ・・・」

小さく呟いて、リボーンは再び瞼を閉じた。
なんだか体中から力が抜けて、
そのまま体の上に体重を預けると、
また腕が伸びてきて、俺の背中を優しく叩いた。
懐かしい匂いを胸一杯に吸い込んで、
リボーンに呼吸を重ねる。

「・・・会いたかった・・・」

俺の呟いた言葉に返事は返ってこなかったけど、
何故か安心してしまい、いつの間にか眠っていた。

聞きたいことも言いたいことも、
明日目が覚めたら全部言おう。
キスも明日の朝でいい。

ただ欲を言えば、
もう少しだけ俺の背中を叩いていて。







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あ、甘い・・・!
書いてる途中で「あれ?ランリボになってきた?」と思って焦った。(笑)
苦情・感想どんとこい!
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