リボーンは部屋の明かりが付けられたというのに
すやすやと眠っていた。
幼いこの寝顔が10年後にあんなふてぶてしいものになると、
誰が予想できただろうか。

「リボーン・・・っ」

「ランボ駄目だよ近づいたら!罠が仕掛けてあるんだ!」

「くっ・・・、リボーン!」

だがもちろん起きる気配はない。
起きていたとしても相手にされるなんて思えない。
10年前、リボーンの目はいつだって俺を見てはくれなかった。
それでも俺は必死に呼びかける。

「リボーンっ!リボーンっ、リボーン・・・!!」

どうせ5歳の自分が死ねば今の自分も消えるのだ。
罠なんか構わない。
そう思い、リボーンに近づこうとするとツナさんが後ろからしがみついた。

「何があったんだよランボ!落ち着けってっ」

「放してツナさんっ、」

今何分経ったのだろう。
俺はまだここにいる?
俺はまだ存在してる?

ぼやける視界の向こうにリボーンが見えた。


会いたい。

消えたくない。


俺、あんたの背中を追って生きたいんだよ。


「リボーン、頼むよ・・・っ、た、すけて・・・」

語尾が震えて、涙が溢れる。
俯くと涙が落ちて床に染みた。

泣き崩れる俺を見て、ツナさんは拘束を外した。

もう時間がない。
立ち上がり、リボーンに近づくと足元にピアノ線が見え、
とっさにまたぐ。
だがまたいだ先にもう一本ピアノ線が張ってあり、
思いっきり足を引っかけてしまった。

「ランボ!!」

ツナさんが叫び、俺も罠の衝撃を待ちかまえて目を閉じたが、
何も起こらない。

「うるさいぞ」

「リ、ボーン・・・」

リボーンは起きあがってこちらを見ていた。
その視線は10年後と変わらず冷たさを含んでいるが、
吸い込まれそうになるほどに惹きつけられる。

「おい牛、用件があるなら早く言え。あと1分44秒しか残ってないぞ」

「あ・・・え、っと」

何て言えばいい?
やばいのは、10年後に行ってしまった10年前の俺で、
10年前の俺が10年後で死んでしまったら、
10年前の10年後である俺が存在しないわけで
つ、つまり、・・・、?

「どうした、さっさとしろ」

「お、俺、あの、あんたに助けてほしいんだ」

「ほぅ」

「10年後のちょうど今、ボンゴレのアジトにどっかのマフィアが侵入してくるんだ。
あんたの部屋に3人侵入してくるんだけど、あんたはそれをあっさり倒して部屋を出ていって、
あ、俺も部屋にいたんだけど、それで、部屋の窓から5人侵入してきて、で、」

ああ自分が何を言ってるのかわからない。
こんなこと説明してどうなる。
10年前のリボーン相手に。

「戦ってる時に入れ替わっちまったから、助けろってか?」

「・・・・・う、ん・・・」

弱々しく頷く。
ムシのいい話だということはわかってる。
リボーンの命を狙ってるの俺を
助けてくれだなんて。
だけど、リボーンからは目を逸らさない。

「リボーン、助けてやろうよ」

肩にツナさんの手が置かれた。
そんな10代目の言葉に
リボーンは少し考えた素振りを見せると口を開いた。

「10年後の保証なんてできるわけねーだろ」

リボーンの口からこぼれたのは冷たい台詞だった。

そりゃそうだ。
未来の保証なんてそんな簡単にはできない。
そんな口約束程度でなんとかなるものなら、
世の中に離婚なんて生まれない。

「だが」

「・・・・・?」


「もし10年後まで覚えていて、気が向いたら助けてやらないこともない」

口の端をつり上げて微笑むリボーンに
10年後の姿が重なる。

やばい。
やっぱりすごく好きだ。

「次寝る邪魔したら殺すぞ」

そう言ってリボーンは再びベッドに寝転んだ。
なんだか見覚えのある光景に
心の中に凍り付いた不安が溶けていく。

「・・・ありがとう・・・っ」

そう言い終えるか終えないかで、
視界は一変した。














―――――――――――――――「・・・・・・・・やっと戻ったか」

まず聞こえたのはリボーンの声だった。
周りには硝煙が立ちこめていたが、
リボーンの匂いを間近に感じて、
自分が抱きしめられていることに気付く。

「・・・・・・・・・?」

「5歳児がやたら暴れるから、あと3秒遅かったら撃ち殺してやろうかと思ったぞ」

リボーンは
10年前と変わらず口の端をつり上げて微笑んだ。

この顔、好き。

俺はリボーンの背中に腕を回し、胸に顔を埋めた。
見た目以上に広い背中。
そして温かい。
リボーンの匂いを肺いっぱいに吸い込んで、
ただしがみついた。

生きてる。

俺は、10年後にこうして存在してる。


「・・ありがと・・・」


限りなく小さな声だったので
リボーンに届いたかどうかはわからない。
だけど俺を包む腕に力がこめられたことは間違いない。
喜びに似たくすぐったさに、
俺はまるで猫のように頬を胸に擦りつけた。
すると、ぐっと腰を引き寄せられて、
上を向くとゆっくりと唇が重ねられた。

「ん・・・っ」

リボーンの唇が乾いてるな、と思った。
やがてくっついていただけの唇が開かれ、
舌が入ってきた。
慣れない他人の舌、しかもリボーンの。
そう思うだけでどこか興奮している自分がいた。

不快感は全く無い。

むしろ、もっとキスしていたい。

「んっ、ん・・・ふ・・・」

鼻から吐息がもれる。
リボーンの舌は熱く、
自分の中の何かが溶けてしまう気がした。
意識はどこか遠くにあって、
わかるのは重なる熱と、しがみつく背中。

やがて、唇が離れると
なんだか名残惜しい気分になった。
唇が唾液にまみれていて、手の甲で拭う。
顔が熱い。
顔を上げられない。

・・・・うわ、マジで恥ずかしい・・・・・・。

黙って下を向いていると、
俺の腰を抱いていた腕が外された。
離れていく体温。
俺も背中に回していた腕を外すと
2人の間にわずかな距離が生まれた。

そして互いに歩み寄ることはないまま
小さな間が流れた。

なんか言えよ、リボーン・・・。

俺はもう一度唇を拭い、
ゴクリと息をのんだ。



「あんた、俺のことどう思ってんの?」



その時、リボーンの口がわずかに開いた。

「俺は「リボーンさーーん。表に女来てますよーー」

リボーンの言葉は獄寺の声によって見事に遮られた。
しかも、何。
お、おんな?

「あ、そうだ。2時に約束してたんだった」

リボーンは部屋に掛かっていた時計をチラリと見ると、
帽子をかぶり直し、蹴り破ったであろうボロボロになったドアをどかすと
部屋から出ていった。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」

部屋の中に転がった死体と一緒に置いてけぼりにされ、
俺は唖然とする。


え、「俺は」何?

その続きは?


「・・・なんか、ただ遊ばれてるだけの気がしてきた・・・」


きっと、これから先もずっと、
あんな奴の背中を追いかけていくのだろうと思うと溜息しか出てこなかったが、
それでも心の何処か奥に満たされた想いがあって、胸をくすぐった。

「なんであんなの好きになるかなー、俺・・・」

口では悪態をついても、顔がにやけるのを抑えられない。
俺は、床に落ちていたベレッタを拾い上げると、
ガラスが無くなった窓へ歩み寄った。
ちょうど眼下にリボーンとハデな女が腕を組んで歩いているのが見えて、
俺はリボーンの背中に狙いを定めた。

当たらないことはわかってる。




だけど、当たるまでその背中を追いかけるのも悪くない。









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おわりです!
やった!おわった!
こんな終わり方でいいのか?まぁいいや。
リボーンとランボは曖昧な距離でいるのが一番望ましい。
なんかね、ベッタベタのイッチャイチャよりも、
微妙な関係で、時々ドキドキみたいな。
慌てて書いたからおかしい箇所があるかもしれませんが、
そういうのはweb拍手かなんかでコッソリ教えてください。コッソリね!
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