いつのまに眠ってしまったのか、
山本とリボーンの話し声で目が覚めた。
どうしよう、と血の気が引いたのを感じたが、
部屋のドアが開けられたので俺は思わず寝たふりをした。

「・・・・・・・・・って、居るのかよ」

呆れたようなリボーンの言葉が降ってきたが、
構わず寝たふりを続けた。

居て悪かったな・・・。
呼んだのはアンタだろ。

だが今さら起きるのは不自然な気がして
寝たふり以外何も出来ない。
それから足音が少し遠ざかったかと思うと、
また近づいてきた。
心拍数が上がる。
少しでも相手の行動を読みとろうと聴覚を研ぎ澄ませると、
自分の少し横のスプリングが小さく音をたてて沈んだ。

座った・・・?

真横に気配を感じ、同時にリボーンの匂いも近くに感じた。
この匂いだけで条件反射でドキドキしてしまう。

まずい。落ち着け、落ち着・・・

不意に髪に手を伸ばされて、危うく目を開けてしまうところだった。
リボーンの指が髪をすり抜けていくのがわかる。
一度だけでなく何度も触れられて、時々指先が耳をかすめていく。
その仕草が心地よくて
ますます起きにくくなってしまった。
変に顔に力が入らないように、呼吸は規則的にと
心の中で唱えながら寝たふりを続けるが、
意識がリボーンの指にしか向かない。

何やってんだよ。
何でそんな愛しそうに髪に触れるんだよ。

自覚したばかりの恋心に赤面しそうになり、
これ以上顔を向けているのは無理だと寝返りを打った。
だが、平静を保っているはずが、
次の瞬間頬を撫でた手に、
俺は思わず飛び上がりそうになるのを抑えることが出来なかった。

リボーンの手が止まり、
小さな間が流れる。

マズ・・・

と冷や汗が伝おうとした時、
耳を突くような音とともに外気が部屋に入り込んできた。

「!?」

その音だけで、部屋の窓が吹っ飛んだことがわかる。
これにはさすがに起きないわけにはいかない、
と目を開けた瞬間飛び込んできたのはリボーンの姿ではなく、
窓から侵入してくる見知らぬ3人の男だった。
だが、その姿を確認する間もなく3発の銃声とともに男達は倒れた。

「うちに乗り込んでくるとは、よそものだな」

リボーンの持つ銃から硝煙が上っている。
一瞬で狙いを定め、一発も外すことなく急所に当てるという技術は
経験だけで会得出来るものではない。
やはり超一流とだけあってその腕に間違いはないようだ。
悔しいけど、かっこいい。

「何見てる」

「み、見てないよ」

敵が乗り込んできたことより、
俺はさっきのことの方が気になってるんですけど。
なんであんたはそんな平然としてるわけ?
このパターン、何回目だよ。
俺一人でドキドキして馬鹿みたい。
怒りにも似た感情が込み上げてきて、
俺はつい言葉を吐きそうになるところを
押しとどめた。

言っちゃだめだ。

この言葉は。


その時下からドーンという爆発音が響き、床が微かに揺れた。
10年前から聞き慣れた音。

「獄寺か・・・アジトの中で使うなって言ってんのに」

リボーンは不機嫌そうに眉間にしわを寄せると、
一階へ向かおうと部屋のドアノブに手をかけた。
だがドアノブを回す前に、リボーンはドアの横においてあった棚の一番上の引き出しを開け、
中からベレッタM92Fを取り出すと、俺に放り投げた。
俺はとっさに手を伸ばし受け取ったが、
意味が分からず疑問符を浮かべたままリボーンを見た。

「窓から5人ほど侵入してくるだろうから、ここはまかせた。じゃ」

「は?」

リボーンはそれだけ言うと、ドアの向こうに消えた。
それと同時にドアの外から銃声が聞こえて、
アジト内に結構な数のマフィアが侵入しているのがわかった。

「・・・なんで俺が・・・」

独りごちて、手の中のベレッタを見つめる。
俺はボヴィーノの一員であって、
そもそもボンゴレのリボーンを殺すことを考えてるわけで、
なんでそんな俺がボンゴレを助けるような真似をしなきゃいけないんだ。
しかもなんだよ、「じゃ」って。
もっと何か言うことないわけ?
ねぇ、


「なんで髪を撫でたんだよ・・・?」


答えを返してくれることのないベレッタは、
心なしか重く手の平にのしかかった。


その時、目の前を銃弾がかすめ、
ハッとして窓に目を向けると、5人の男が勢いよく侵入してきた。
男達も俺に気付き、一斉に銃を向け、
俺は身を翻してベッドの影に隠れた。

「・・・マジで5人来たよ」

やれやれ、と一つ溜息。
リボーンほどではないが、俺もそこそこ射撃の腕はあるので、
タイミングを見計らいベッドの影から応戦する。
だが相手も素人じゃない。
俺の攻撃は一向に当たらない。

「やばいかな・・・」

さすが高級なベッドなだけあり、銃弾が貫通する恐れはないが、
あまりこのベッドを盾にすると約一名から苦情が出そうなので、
長引かせるわけにはいかない。

「ち・・・っ」

頃合を見計らい、ベッドの陰から飛び出した。
だが、近くの机の後ろに隠れるはずだった体は
次の瞬間、全く違う場所にあった。

突然の暗闇に何が起こったのかわからなかったが、
次第に目が慣れてきて、自分が誰かの部屋にいることがわかった。
勉強机やタンス、ベッド、
どれもリボーンのものではないが、
見覚えのある部屋。

「・・・・・・・・・・おいおい・・・」

血の気が引いていく音とともに、
部屋の明かりが付けられた。

「また10年バズーカ使ったのか〜!?」

「10代目・・・」

ベッドから起きあがったのはこの部屋の主であり、
ボンゴレファミリーの10代目であるツナさんだ。
ただし、まだ中学生の姿。
俺は10年前の世界に来てしまった。

「よりによってこんな時に・・・」

膝の力が抜けて俺はその場に座り込み、頭を抱えた。
5人の敵を相手にするなんて
10年前の俺にできるわけがない。
しかもちょうど飛び出した瞬間である。
絶体絶命以外の言葉が思いつかない。

もし、10年前の俺が死んだらどうなる?

これまで何度か抗争中に入れ替わったことはあったが、
今回ほど最悪なケースは無い。
たかが5分だが、されど5分。
5歳児を殺すのに5分もいらない。

5歳の俺が死んだら、
今ここにいる俺はどうなる?

嫌な予感に背筋が冷たく震えた。

「ど、どうしたんだよランボ」

「・・・・・」

「あ、リボーンの寝込みを奇襲しにきたの?や、やめといた方がいいよマジで!」


“リボーン”

名前を聞いただけなのに、助けを求めたくなる。
リボーンに頼ろうなんてこれまで思いもしなかったのに、
今初めて、縋りたい、と感じた。


俺はこんなにも、弱かっただろうか。

そして、こんなにもリボーンを愛しいと感じたことがあっただろうか。







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今回はチューとか無いです。
期待してた方すみません。(笑)
次でこの話終わります。
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