リボーンのキス。
唇ではなかったとはいえ、あのリボーンからのキスはどこか意味深だが
あれから3日間考えても理解できなかった。
もしかしたら深く考えようとしていなかっただけかもしれない。
キスの意味だけじゃなく、自分自身の心の揺れも。

「そういえば、初めてしゃべった気がする・・・」

5歳の時に当時のリボーンとバーで会った時は
自分ばかりが一方的にしゃべっていた
・・・というか、今になって考えてみると
あの時からすでにリボーンの視界に入っていなかった気がする。
それが、3日前ついに話をしたのだ。
話といえるほどのものであったかはわからないが、
リボーンの口から発せられた言葉は確実に自分に向けられていた。
言葉だけじゃなく、視線も。

「・・・・・・・・・・・・・どうしよう。なんか嬉しい。」

リボーンの命を狙い続けて早10年。
初めて相手にされた。
本来「嬉しい」なんて思ってはいけないことは重々承知なのだが、
嬉しくて仕方ない。
やっと認められ、スタートラインに立てた。
そんな想いに心が躍った。

そしてあくまで心の奥にある気持ちには気づかないようにした。





―――――――――――「あぁ?なんだテメェか。また10代目に甘えにきたのか?」

ボンゴレのアジトに向かうと、まず出てきたのは獄寺だった。
俺がいまだにツナさんに甘えてることを快く思ってないようで、
いつも眉間にしわを寄せては今にも噛み付きそうな目で睨んでくる。

「あんたはその愛しい10代目のところにでも行ってなよ。今日はツナさんに会いに来たわけじゃないし」

熱に熱で対抗するのは大人げないので、軽くあしらってみせる。
5歳のころなら簡単に熱くなっていたが、10年もたつと余裕が出てくる。
俺って大人。

「じゃぁ誰に会いに来たんだよ」

ますます眉間にしわを寄せる獄寺を一瞥し、

「リボーン」

と答え、獄寺の脇を抜けて中に入った。
すると獄寺は鼻でフンと笑った。

「ぁん?まだ諦めてなかったのか?
やめとけよ。テメェなんかにリボーンさんが相手になるわけないだろ」

そう言って俺がリボーンの部屋へと向かうのを引き止めようとしない。
むしろ、さっさと行って泣かされてこいと言わんばかりだ。

「・・・・・」

カチンときたが、俺は大人なのでそんな挑発にはのらない。
それになにより、ちゃんと相手にされたもんね。
3日前、俺はリボーンに認められたんだ。

だから今日は命を狙いに来たのではなく、話をしに来た。
機会があれば奇襲をかけてみるつもりではあるが、
一マフィアとして、バーで出会ったあの時のようにまた話をしたいのだ。
今度は一方的ではなく。

ボンゴレのアジトには何度か来ているので、
リボーンの個室がどこにあるのかは把握していた。
ツナさんの部屋が最奥にあり、ちょうどその手前にリボーンの部屋がある。
どこか威圧感のある木製のドア。
俺はゴクリとつばを飲み込み、初めてノックをした。
いつもなら突然開けたり、もしくは窓から侵入したりだったので
なんだか緊張した。

だが、中から返事は無い。

「・・・・・居ない?」

おそるおそるドアを開けて顔を覗かせてみた。
リボーンの部屋は広く、白や黒のモノトーンで統一され、
いつも散らかった様子はなく落ち着いている。
家具なんかにこだわるような性格では無さそうだが、
どうやら寝ることだけにはこだわっているらしく、ベッドだけは高級感が溢れていた。
キングサイズよりも一回り大きいように見える。

・・・やらしーベッドだな。

そして目線を奥に向けると、窓際の椅子に座って銃の手入れをしているリボーンのシルエットがあった。

「なんだ、居るなら返事くらいしてくれよ」

ドアを後ろ手で閉め、リボーンのもとへ歩く。
リボーンは丸いテーブルの上の小さなラジカセから流れるラジオを聴きながら
6インチのコルトパイソンを丁寧に磨いていた。

「今日は殺しに来たんじゃないよ」

そう言いながら、向かいの椅子に腰をかけた。
だがリボーンの目は銃に向けられたままだ。

あれ?反応無し?

「なぁ、今日は仕事無いの?」

尋ねる俺を見ずに
リボーンはまるでこの部屋には誰も居ないかのように
黙々と銃の手入れを続けている。

「なぁ、リボーン」

「・・・・・・・・・・・」

「リボーン」

「・・・・・・・・・・・」


・・・・・これってもしかして・・・

無視ってやつですか?


「おいっ」

無理矢理にでも視界に入ってやろうと
リボーンの顔をのぞき込む。
それでもリボーンの目はこちらを向いていない。

わけがわからない。
3日前はあんなにしゃべったのに、
しかもリボーンから俺に話しかけてきたくせに、
まるで何もなかったかのようなこの態度。

「しゃべるまでここにいるからな・・・!」

俺は椅子に深く腰掛け、居座ることを決めた。

意地でもしゃべらせてやる。





――――――――――――――――だが、待てど暮らせど返事は無し。

最初は懸命に話しかけてみたが、時間が経つに連れて話す内容も尽きた。
リボーンは銃の手入れを終え、何やら難しそうな本に目を通している。

もしかして、俺ってほんとに存在してないのかな・・・

窓の外は薄暗く、街の光が灯り始めている。
もうどれだけここに居たんだろう。
さすがに疲れてきた。

ただジッとリボーンを見つめても、
返ってくる物は何もない。


「・・・なんで話もしてくれないの?」

「・・・・・・・・・・」

「ねぇ」

「・・・・・・・・・・」

「俺のこと買ってるって言ったじゃん・・・」

「・・・・・・・・・・」


・・・全然反応無しかよ。
あ、マズイ。
涙出てきた。

「な、泣いてないからな」

我ながら説得力ゼロ。
だけどリボーンは見向きもしない。

「こっち見ろよっ・・・」

これ以上情けない言葉を吐きたくないのに
口が言うことを聞かない。


「何だよ・・・」


これだけは言っちゃいけないのに。




「・・・・・構えよ・・・っ」




恥ずかしくて俯いた瞬間、リボーンがこっちを向いた気がした。
それを確認しようと顔を上げようとするが、


「リボーンさーん、10代目と外にメシ食いに行くんスけど一緒にどうッスかー?」

獄寺の声と同時にノックが聞こえて、我に返った。
リボーンを見やると、座ったままドアの向こうの獄寺に話しかけていた。

「どこに食いに行くんだ?」

「新しいパスタの店ッス」

獄寺とはしゃべるのかよっ・・・
さっきまでずっとだんまりだったくせに・・・!

手の甲で涙を拭い、席を立とうとテーブルに手を付いた。

認められたなんて思って浮かれてた自分が馬鹿だった。
このままもう何も言わずに消えてしまいたかった。

が、その手を向かいに座っているリボーンに掴まれる。

「!?」

「今日は中華の気分だから遠慮しとく」

・・・え?

「そうッスかー。あ、そういえばランボはもう帰ったんですか?」

「あぁ、とっくに帰ったぞ。周囲に気を付けろよ。10代目の命を狙ってるヤツは多い」

え?え?

お、俺ここにいるよ?


「まかせてくださいよ!じゃぁ、行って来ますね」

ドアの向こうでしばらく足音が聞こえたが、
やがて出ていったのか静かになった。

俺は言葉が出てこなくて、
掴まれた手をただ見ていることしかできなかった。

どういうこと?

おそるおそるリボーンを見る。
すると確実にこちらを見ている目と目が合った。
切れ長の目が細められる。

「構ってほしいんだろう」

顔がカァっと熱くなるのがわかった。
不敵な笑みが憎たらしくてつい声を荒げそうになったが、
ふいに涙がまた溢れてきてそっぽを向いた。

「な、なんだよ。無視してたんじゃないのかよっ」

「話は全部聞いてたぞ。ただ返事をしなかっただけで」

アッサリと告げるリボーンに、怒りに似た思いが込み上げる。

「め、目だって合わせようとしなかったじゃないかよ」

「目を合わせると誰かさんが怯えるからな」

「う・・・」

ええそうですよ。目が合うとビビるのは俺ですよ。
実際今も目を合わせられませんよ。
なんだか居づらいんですよ。
ていうか、

「・・・手、放せよ」

さっきからずっと掴まれたままの手を指す。

「嫌だ、と言ったら?」

「は?・・・ってオイっ」

ぐい、と手を引き寄せられ強引に立ち上がらせられる。
だがリボーンと自分との間にテーブルがある所為でうまく立ち上がれず、
テーブルの上に並んでいた銃弾が何本か倒れた。

「あぶねっ、急に何す・・・」

るんだよ、と続けようとした口は突然塞がれてしまった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・?


自分の身に何が起こっているのか分からない。
テーブルの上の銃弾がカラカラと音をたてて転がった。

目の前にあるのは間違いなくリボーンの顔。
近い、近すぎる。
というよりも、くっついている。
ということは・・・

―――――――――――キ、キキ、キス?

「んーっ・・・!!」

押し返そうと腕を突っ張るが、
手を後頭部に回されて、肝心の唇が離れない。

―――――――――――な、なんで!?

困惑する俺をよそに、リボーンは舌を侵入させようと押し付けてくる。
俺は唇をギュッと閉じてそれを阻止するよう試みるが、なお強引に迫ってくる。
頭のどこかで警報機が鳴っている。
このままじゃヤバイ、と。

その時、ドアの向こうから足音が聞こえてきて、
一瞬リボーンは注意をドアに向けた。
俺はその隙を突いて渾身の力を込めてリボーンを突き飛ばし、
ドアに向かって駆け出した。


「なんで財布を忘れるかな〜あいつは」

ドアの向こうから聞こえたのは山本の声だった。
どうやら獄寺が財布を忘れていってしまったらしく、
山本が取りに戻ってやったようだ。
10年経っても山本のお人好しは変わらず、
ツナだけでなく獄寺の世話までしている。

山本になら別に泣き顔を見られても揶揄されることはないし、
このままドアを開けて逃げ出してもかくまってくれそうだ。

そう思い、慌ててドアノブを回そうとしたら
刹那、後ろから手が伸びてきてダンッという音と共に顔のすぐ横の壁に手が置かれた。

「ヒッ!」

振り返るとそこにはもちろんリボーンの姿があり、
もう片方の手はしっかりとドアを押さえていた。
俺はリボーンの両腕の間で完全に逃げ道を塞がれてしまった。

「ア、アンタ何考えてんだよっ!!」

威勢がいいのは声だけで、リボーンの目を見る勇気はない。

「それはこっちの科白だ。俺にどうしろってんだ」

確かにポロッと「構って」なんか言っちゃったけど
キスするのはどう考えてもおかしいだろ!
ていうか何でキス!?
あーもうアンタ何の香水付けてんだよ!
冷静な口調で問うリボーンとは反対に、俺の混乱は増すばかりだ。

「せっかく構ってやったのに逃げられるなんて心外だ」

「逃げるに決まってんだろ!」

女じゃあるまいし、当然だ!
そう主張してもリボーンは納得いかないと眉を寄せる。

「あれはどう考えてもそっちから誘ったようにしか思えないぞ」

「さ、誘ってなんかいない!」

すると、もう一度キスでもしようというのか、
再びリボーンの顔が近づいてくる。
なんとかして逃げようと身をよじるが
腕の外には出られない。
頭の奥で再び警報機がなり始める。
危機を感じているのに体は言うとおりに動こうとしない。
動けない。

徐々にリボーンとの距離が縮まっていき、
やがて吐息を間近に感じ、俺は思わず目線を向けてしまった。

・・・や、やばい、目が合っちゃった。

慌てて目をそらすが、時すでに遅し。
リボーンとの距離はあと数センチ。

こ、このままじゃまたキスされてしま――――――――

「悪ィ山本、俺ちゃんと財布持ってたわー!」

「うわーーーーーー!!!!!」

戻ってきたらしい獄寺の声で我に返り、
俺はつい恥ずかしさのあまり叫んでしまった。
それにはさすがのリボーンも驚いたらしく
俺が腕を逃れてドアを開けても唖然としたままだった。
そしてドアの向こうには同じく唖然としている獄寺と山本の姿。
構わず脇を走り抜けようとすると、獄寺に引き止められた。

「テメェ、帰ったんじゃなかったのかよっ」

先程獄寺と相対したときのような余裕は俺には既になかった。
目の前に迫ったリボーンの顔が脳裏にチラついて、
俺は振り払うように頭を振る。

「り、リボーンは変態だ!」

「はぁ?」

疑問符を並べる獄寺と山本を見ずに、
俺はそのままボンゴレのアジトから逃げるように出ていった、というよりも逃げた。


「リボーンさん、新しいランボ撃退法でもあみ出したんスか?」

「まぁ、そんなとこだな」






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泣きながらランボたんに「構って」と言われりゃ
そりゃチューだってしたくなるっていうお話。
嘘。
ただのホモ話です。
この話はランボたんが自分の気持ちに気付くまで
続けるべきかな?
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