丸いレンズに描かれた十字の中心に、ある男が映っていた。


マフィアの世界で超一流と名高い男、リボーン。
そんな有名人ともあろう方が、無防備に公園のベンチに深く腰掛けボーっとしている。

「殺してくださいと言わんばかりだな、リボーン」

獲物は『COLT・M16A2』。
ラバースコープとチークパットが装備されたスナイパーバージョンのライフルだ。
一昔前の物だが俺には充分すぎる代物。
ボスは俺に期待して武器を与えてくれる。
これまでことごとく失敗を重ねているにも関わらず可愛がってくれるボスに
一刻も早く恩を返したい。

廃墟となっているビルの屋上からジッと狙いを定めた。
この距離なら充分届く。
リボーンは気付いていない。
今なら確実に仕留めることができる。

「もう格下なんて言わせない」

呟いて引き金を引く指に力を込めた。


「死ね、リボーン」


「それは無理な相談だ」

後ろから声がしてギクリとして振り返ろうとした瞬間、
こめかみに銃口を押し当てられ、背中に一筋汗が流れた。

目線だけを動かして相手を見る。
もちろん相手は他の誰でもなく。

「リ、リボーン・・・なんで」

リボーンは口の端をつり上げて笑った。

「位置がバレバレだ。ほら、銃をよこせ」

「・・・・・・」

渋々銃を渡すと、リボーンは中に込められていた弾丸を全て抜いた。
弾丸がバラバラと音をたててコンクリートの上に散らばった。

「M16A2か、悪くないが使い手の問題だな」

そう言うと押し当てられていた銃がやっと下ろされ、
俺はふぅと息を吐いた。
そしてライフルを返された。

見るとリボーンと一瞬目があったが、
俺なんかに興味が無いと言わんばかりにくるりと背を向け
スタスタと屋上の出口へと歩いていく。
その黒いスーツに纏われた背中をジッと見つめる。

「・・・なんだよ、敵に堂々と背中見せやがって」

リボーンは足を止めようとも、振り返ろうともしない。


今ライフルの弾倉は空になってるけど、
足元に散らばっている弾を1つでも詰めれば撃てるんだぞ?

何だよ、何だよその余裕の背中は。

それだけ俺は相手にならないってこと?


「・・・・・っ」

ぎゅっと唇を噛みしめて溢れてこようとする涙を堪える。

悔しい。

涙でにじむ視界の奥でリボーンの背中が小さくなっていく。

「くそっ!」


ライフルを持つ手に力を込め、
足元に転がっている弾をやみくもに1つ拾い上げ再び背中を睨んだ。
だが、
隙が無い。

当たる気が、しない。


急に体から力が抜けて、その場に座り込んだ。


「はは、全っ然、届かない・・・」


届かないどころか、
完全に眼中にすらない。
膝を抱えて顔を埋めると、堪えきれなくなった涙が流れ出した。

「っく・・・・」

悔しい。

次から次へと溢れ出す涙。
流れるたびに弱い心が顔を出す。

泣いちゃダメだってわかってるのに、涙腺が言うことを聞かない。

「・・・うっ、っ・・・」

泣き声が空しく響いて空気の中に消えていく。

ツナさんのところに、行きたい。
優しいツナさんのところに。
5歳の時からの甘える癖がまだ抜けない自分がどうしようもないと感じるけれど、
安心してしまうのだ。ツナさんの腕に。
だけど、絶対またリボーンと顔を合わせることになって、
また冷たい目線で見下ろされて、みじめな気持ちになるのが目に見えている。
泣き虫な自分を直さないといけないことは痛いほどわかっているのに。

「ぐすっ・・・が・ま・ん・・・」

自分に言い聞かせるように繰り返してきた言葉はもう口癖となってしまった。

我慢。
我慢。
我慢。

「が・・・まん・・・が・ま・・」




「で、いつまでそうしてる気だ」


突然上から降ってきた言葉にハッと顔を上げると
そこにはさっき出ていったはずの男の姿があった。

思わず後ずさりすると腕を掴まれ、
俺は「ヒッ」と身をすくませた。

「な、なんで?なんで戻ってきた?」

震える語尾が情けない。
掴まれた腕も振り払えない。

「どうせまたツナのところへ来るんだろう」

リボーンがしゃがむと、目線が一緒になって
俺は気まずくなって目をそらした。

「い、行かないもん」

つい、ムキになる。

「へぇ」

「本当に、行かないっ」

馬鹿にされている。
弱虫で、泣き虫だと。

「せっかくツナを呼んできてやったのに」

「えっ!」

「嘘だけどな」

「!!」

つい辺りを見回してしまった自分が恥ずかしい。
完全に振り回されている。

「あいにく、うちのボスは忙しいんでね。
三流マフィアに構ってる暇は無い」

三流という言葉に、さっきまでの恥ずかしさが消えた。

「ボヴィーノは三流じゃない!放せよ!」

力一杯引っ張ったが、ビクともしない。
決して体格の良い相手ではないのに、全く動かすことができない。

「口だけは一人前だな」

鼻で笑われてカッとなる。
空いている方の手で殴りかかろうとするが、
それもあっさりと捕らえられてしまった。

「・・・っ」

こんなに近距離にいるのに、殴ることさえできない。
悔しさでまた涙が溢れる。
また馬鹿にされるのに。

見られまいと顔を背けると、リボーンが溜息を吐くのがわかった。


「威勢の良さは買ってるんだがな」

「え・・・」


その瞬間、こめかみに柔らかい感触が押し当てられたのがわかった。

「!?」

驚いて顔を上げると、今度は目の前にリボーンの顔があって
思わずギュッと目を閉じると舌でペロリと目尻にたまった涙を掬われた。


―――――――――――な、なになになに!?


あまりに予想しなかった出来事に頭がついていかない。
だって今確かにこめかみに感じた感触は、間違いなく――――

「またビルの屋上から俺を狙うときは、
せめて身をかがめて太陽の位置を把握しておくんだな」

固まってしまった俺をよそにリボーンは何もなかったかのように立ち上がると、
俺の腕を放し、また背を向けた。



「い、今、何した・・・?」



俺はその場から動けないまま、今日二度目の背中を見送った。










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というわけでリボラン第1弾。
あくまでまだホモホモしくはなく、
これから徐々に恋心を育てていけばいい。
そして教え込まれていけばいい。(笑)









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